奥沢3-45-2、20年目の秋 ─ 小麦13種と酵母5種が並ぶ、住宅街の一角
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奥沢3-45-2、20年目の秋 ─ 小麦13種と酵母5種が並ぶ、住宅街の一角

自由が丘駅の南口を出て、奥沢の方角へ7分ほど歩いた先。奥沢駅からは1分と離れていない路地に、木製のドアの小さなパン店がある。2006年11月に開いた店が、今年で20年目の秋を迎える。

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自由が丘駅から、南へ

自由が丘駅の南口を出て、奥沢の方角へ7分ほど歩いた先。住宅街の一角、奥沢駅からは1分と離れていない路地に、木製のドアの小さなパン店がある。

外観はシンプルで、看板もそう大きくはない。名前はアルチザン・ブーランジェ・クピド。2006年11月に開いた店が、今年で20年目の秋を迎える。

13種と5種

店内は真っ白で、明るい。売り場と厨房が一体になっていて、パンを焼く手元がそのまま見える。壁には、ささやかな落書き。

並ぶパンは、およそ60種類。小麦は13種以上を、製法に合わせて使い分ける。酵母は5種。ドライイースト、生イースト、サワードゥスターター、フルーツ酵母、ビール酵母。用途に応じて選び分ける。

バゲット・トラディション。フルーツ&ウォールナッツ・カンパーニュ。クロワッサン・クピド!。カンパーニュセレアル、ベルリーナ、メロンパン、あんぱん。名前を並べているだけで、棚の前に立った時間の質感が少しだけ返ってくる。

フランスでの、ひとつの午後

経営と販売を担うのは澤口洋明さん、焼き手は東川司さん。二人体制の小さな店。

店を始めるきっかけは、澤口さんがフランスを旅していたある一日にさかのぼる。食材店「ダ・ローザ」で買ったワインとハムを、パン屋「カールトン」のバゲットと合わせて食べた。そのときの感激を、澤口さんはこう語っている。

ひとり1000円足らずでこんなにおいしくて、こんなに幸せな気持ちになれるなんて。

この一皿が、澤口さんの人生を変え、今の店につながっている。「パンは人生を楽しくするものだ」というのが、澤口さんの言葉。

焼き手の東川さんは、もともと料理の修行をしていた。パリで食べたクロワッサンに感動して、パンの道へ進んだ。二人の道が、それぞれフランスのどこかの午後を経由して、奥沢の路地でひとつになっている。

バターも、ジャムも要らない

澤口さんが繰り返し語ってきたのは、こういう思い。

バターやジャムをつけなくてもおいしい、「パンだけでおいしいパン」をたくさんの人に食べてもらいたい。

だから小麦を13種使い分け、酵母を5種選ぶ。装飾でも足し算でもなく、素材そのものを立たせるための細分化。

食べログの「パン TOKYO 百名店」には、2017年、2018年、2019年、2020年、そして2022年と、これまでに5回選出されている。ただ、店の空気は選出リストの重みを外へ押し出さない。売り場と厨房のあいだの距離が、そもそも近い。

20年目の、静かな秋

営業は10時から14時と、15時から19時の二部制。定休日は木曜と、水曜が隔週で入る。公式のInstagramでは、日々のパンの様子がゆっくりと発信されている。

自由が丘駅からは7分。歩けば、駅前の賑わいが一段ずつ引いていって、奥沢の住宅街の静けさに変わっていく。その途中にある扉。20年目の秋、扉の向こうには、13種の小麦と5種の酵母が今日も並んでいる。

またあの路地を通る日に、木製のドアを引いてみようと思う。