熊野神社参道の秋、開業から17年 — 香辛堂、挽きたてで渡される160種の粉
画像はイメージです。 Photo: Anh Thu Le / Pexels (Pexels Free License)
飲食 読 2分

熊野神社参道の秋、開業から17年 — 香辛堂、挽きたてで渡される160種の粉

熊野神社の参道沿いに、木製の看板が立っている。2009年に開いた小さな店で、開業から17年になる。オーダーを受けてから、160種のスパイスを挽いて渡す。

#hidden-gem#food#spice#koushindo#kumano-jinja#jiyugaoka#17-years#artisan

参道沿いの、木製の看板

自由が丘駅から歩いて5分ほど。熊野神社の参道沿いに、木製の看板が立っている。

派手ではない。通りかかっただけでは、そのまま通り過ぎてしまう。扉を開けると、店内は思っていたより狭く、そして、香りだけが濃かった。

棚に並ぶ小瓶。ラベルの文字。ミルの重たそうな形。まるで博物館のようだ、という誰かの言葉が、少しわかる気がする。

開業から、17年

香辛堂が、この参道沿いで店を開いたのは2009年。以来、17年になる。

「オーダーを受けてから、その場でスパイスを調合する」— 日本で初めてそれをやった店、と紹介されている。ミックススパイスの専門店、という言葉だけでは、少し足りない。棚から選び、量り、ミルで挽く。粉になって初めて、袋に入る。

17年、この作法を変えていない。

ビッグバンから、160種の棚へ

店主がスパイスに触れるようになって、25年以上になるという。

きっかけは、インドを放浪していた友人と、山に登った夜のこと、と本人が語っている。凍えるほど寒かった。その友人が淹れてくれたチャイを飲んだら、汗をかくほど体が温まった。「ビッグバン」のような体験だった、と表現している。

そこから、日本はスパイス後進国だと思うようになったという。「好きなことをやりたい」— それだけの理由で、この専門店を立ち上げた。今は東京と島根県松江市の二拠点で暮らしていて、松江ではヴィーガンカフェもオープンしている。

その25年前の一夜から、参道沿いの棚に、160種以上のスパイスが並ぶようになった。単品でも買えるし、好みでミックスを頼むこともできる。カウンター越しに「こういう料理に使いたい」と伝える。店主が棚から瓶を取り出す。ミルの音がする。挽きたての香りが立ち上がる瞬間、それを袋に詰めて渡してくれる。

挽きたてと、そうでないもの。香りの広がりが、違う。

秋の入り口に

店が挙げているミックスに「自由が丘ホットワイン」と「自由が丘サングリア」がある。街の名前を冠した、独自のブレンドだ。

夏のサングリアから、秋のホットワインへ。この店の棚は、季節の入り口に立っている。根菜が甘くなる頃、チャイのカルダモンが恋しくなる頃、煮込みにクローブを一本落としたくなる頃。粉のかたちで、そういう時間が渡されていく。

2025年の春から、通販は休止していて、今は店頭のみの販売だそうだ。この参道に来ないと会えない粉、ということになる。

また、あの参道を

熊野神社の参道は、駅の喧騒から少しだけ離れている。

その参道沿いの、木製の看板。挽きたての香り。17年、静かに続いてきた作法。教えたい気持ちと、そっとしておきたい気持ちが、半分ずつある。

季節が変わる頃に、また一度、あの参道を歩こうと思う。