油の中に緑がひとしずく — 緑が丘わび助、12席で揚がる7:3の音
緑が丘駅を出てすぐ、マンション1階の12席。油には、しらしめ油とオリーブオイルが7対3で合わせられている、と東急の緑が丘紹介記事に書かれている。
緑が丘駅の、マンション1階
緑が丘の改札を抜けると、目の前にマンションの1階がある。
木の温もりのカウンターが、ガラス越しに見えている。看板には、天ぷらわび助。
ヒトサラの店舗ページでは「自由が丘エリアの天ぷら専門店」と紹介されていて、緑が丘駅北口より徒歩1分、と書かれている。マンションの1階、というのが、この店の一番短い言い方になる。ぐるりと歩き回って探すような場所にはない。ただ、街の中心にあるわけでもない。駅前に、静かに置かれている。
油に混ざる、緑のひとしずく
主役は、油だ。
東急の緑が丘紹介記事に、配合が書かれている。しらしめ油とオリーブオイルが、7対3で合わせられている、と。
カウンター越しに、店主の手元が見える。ネタが油に落ちる音。それを聞きながら、匂いがゆっくり漂ってくる。ごま油の重い香ばしさでも、菜種の澄んだ匂いでもない。オリーブの、少し青いところ。それが油の3割ぶんだけ、混ざっている。
グランドニッコー東京のコラムには「サクッとしたリッチさに繊細な旨味が優しく広がる」という表現があった。東急の記事では、常連客の声として「たくさん食べても翌日胃もたれしない」と紹介されている。
7対3という配合の由来まで、公式発信では詳しく語られていない。ただ、この比率で揚がる衣が、この店の輪郭を作っている。
12席、揚げる音、包丁の音
店内は12席。
カウンターに6席、テーブルに6席。公式サイトによれば、私的貸切は最大12人まで。店ぜんぶを、12人で貸し切れる。
カウンターの席に座ると、店主の手元がすぐ目の前にある。公式サイトには、カウンター体験として「揚がる音・包丁の音」と書かれている。会話ではなく、音のほうが主役になる席。
グランドニッコー東京のコラムは、木の温もりのカウンターについて「職人の生き生きとした技を目の前で体感」と書いている。ネタが油に入る瞬間、衣が広がる音、油から引き上げる音。順番に、一つずつ、届く。
夜のコースは、天ぷら会席「牡丹」6,600円。日本酒は160ml、880円から。昼は、丼物と御膳。ヒトサラの掲載価格帯ではランチ1,200円、公式サイトの昼予算は1,001-1,500円と示されている。2025年2月27日には、ヒルナンデスの市川團十郎コーナー「1500円以下コスパグルメ」で、天丼と玉とじ親子天丼が紹介されている、とActiviTVの番組内容記事にある。夜の会席と、昼の丼。同じ12席で、二つの時間帯が回っている。
栃木から、緑が丘へ
店主は、渡辺佳司。18歳から料理の道に入った、と東急の紹介記事にある。
修業先は、東銀座の天ぷら店、赤坂と恵比寿の会席料理店。和食中心の修業を経て、天ぷらの技を積み重ねてきた経歴。それが、緑が丘のマンション1階に着地した。
栃木が地元、と紹介記事にある。春には、栃木から山菜が届く。「地元」と書かれた場所から、季節ごとに素材がやってくる。それ以外の日は、ほぼ毎日、豊洲市場から仕入れている、とも。
緑が丘は、東急の緑が丘エリア公式ページで大井町線の駅として紹介されていて、北千束と自由が丘のあいだに置かれている。大井町線で自由が丘の一駅隣、という距離。その駅前の、マンション1階。栃木を地元とする店主が、なぜこの1階を選んだのか。公式発信では、その理由まで語られていない。ただ、駅を出て数十歩の場所に、12席が置かれている。それが、この店の距離感だ。
また、油の音を聞きに
営業日は、水曜から日曜。11時半から13時半、17時半から21時半。月曜は休み、火曜は昼のみ休み。開店は、2023年12月12日、と公式サイトに記されている。今年の12月で、丸3年になる。緑が丘の駅前1階に、木のカウンターと油が置かれてから、まもなく丸3年。
緑が丘のマンション1階に、しらしめ油の7とオリーブオイルの3が合わせられた鍋がある。カウンターとテーブルで合計12席、揚げる音と包丁の音が、会話の代わりになる。
教えたい気持ちと、教えたくない気持ちが、半分ずつ。
また、油の音がいちばん静かに聞こえる席で、栃木の山菜が入る春を待ってみようと思う。
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